自主研究レポートNo.3 / 2022年10月1日
京浜総研合同会社 主任研究員 三岩幸夫
1.はじめに
日本国内企業において、組織運営における非属人化が叫ばれて久しく、すべての企業トップが業務の非属人化を目標とはしているが、ほとんどの企業において目標を達成をしていない。
企業トップは非属人化の指示が具体的方策もないか、または、具体的であっても的外れな指示に終始するのみで、なんら有効かつ緻密な戦略を提示できずにいるため、その目標達成ができずにいる。
非属人化はその企業風土や最前線の業務全てを把握することが必須のため、外部のコンサルタントへの依頼は、そのほとんどが失敗による業績低下や組織崩壊に終始をする。
つまり、組織運営における非属人化は「言うは易しく、行うが難し」の典型例である。
正社員をベースとする国内企業の多くは建前として「得点主義」を掲げる一方、実態では「減点主義」であるのが実態であり、得点主義の企業は非正規雇用の主力の営業職や外食分野に多い。
従って、減点主義の企業では、とにかく失敗しないことが最重要であるため、組織の上位になるほど慎重で自己保身になる傾向が高くなってしまう。
非属人化の推進は、組織の上位であるほどより効果的に実施することが可能であるが、多大なリスクを伴うため、自己保身による頓挫で帰結をする。
国内企業の多くにおいて、非属人化の推進のモチベーションが比較的に高いのは、係、班、グループなど最下層組織であるが、組織における権限が一番ないため、全体の組織改革が実現できないでいる。
ただ、下層組織の長は自身の組織については権限を有するため、まず、係、班、グループなどレベルでの属人化を成功させることが第一歩となる。
2.非属人化3点ツール
係、班、グループなど下層組織の長は、プレイイングマネージャーであることが散見されるため、そのような場合、最前線の業務を手放し、完全にマネージャに徹することが必要となる。
その上で下層組織の長は、「IT」、「IoT」、「メカ」の非属人化3点ツールを自ら取得をする必要がある。
多くの下層組織の長は、それらのツールが得意な部下に丸投げすることが散見されるが、非属人化はマネージングの中核であるため、その当事者である長が実施することがポイントとなり、ツールにおける第一人者にならねばならない。
もし、長が部下に担当させる場合、長は必ずマクロやスクリプトレベルで具体的にイメージできる段階に達してから部下に指示をしなければならず、決して、指示後に技術的に無理だと報告を受けるようであってはならない。
前述の3点ツール以外に「AI」が有効なツールであり習得が可能であれば理想であるが、非常にハードルが高いため無理をする必要はない。
最前線の業務は非常に多種多様ではあるが、3点ツールの比率は業務によって異なるが、ほとんどの場合、3点ツールは非属人化において有効なツールとなりうる。
3.事務・営業職等
内勤や営業の場合はその業務の多く事務処理を占めるが、まず、紙レベルによる業務フローの場合は、まず、業務ソフト導入など紙からPCに業務を移行させる。
PCベースに移行できたところで、各人個別のPC事務作業は、必ず、定形作業が含まれるため、長はこれらの事務作業を全て分析をして定形作業を抽出をする。
各人の事務作業の分析は、長のマネージメントの中核であるため長にしかできない作業であり、定形作業の抽出は非常に苦行に満ちてはいるが、徹底的に執念深く探求をしていかなければならない。
実際には定形作業をピタリ抽出することはできないが、実際の業務フローを修正することで定形作業化できることが発見できるであろう。
業務フローを修正権限は長にしかないため、ツールが得意な部下に丸投げした場合は業務フロー修正権がなく成果がゼロに終わることに終始をする。
ただし、業務フローは内部で閉じるケースばかりでなく上位組織が関与するもあるため、その場合は業務フローの修正ではなく上位組織とのインターフェースを分析をして定型作業を抽出してプロトコルの確立を組織内で実施する。
作業労力の大半は、長にしかできない組織内の業務フロー修正と対外プロトコルの確立であり、実際のIT化はさほど重要度は少ない。
実際のIT化はRPA(ロボティック・プロセス・オートメーション)の導入で大半が網羅できるが、それでもカバーしきれない場合は、Pythonのスクリプトを用いるなどをする。
PythonはIT化において万能ではあるが低水準であるため、できるかぎり高水準なRPAで網羅させる努力をしなければならない。
4.製造業
概ね日本の製造業が21世紀以降に長期低迷が継続しているため、リストラによる固定経費低減が迫られており、その推進に伴い人材の質低下も余儀なくされている。
このような人員削減と人材の質低下においても業務成果レベルを維持する切り札として非属人化が非常に有効となる。
製造業経営者の多くは口先では非属人化を叫ぶが、現状の業務フローでそこそこの成果を得られるため、業務フローの見直しに躊躇していることが多い。
ある製造業経営者は長期低迷によるリストラによる固定経費低減の実施を余儀なくされたが、多くの保身的な経営者とは異なり現状の業務フローを全て破壊する覚悟を決めたため、本格的に非属人化を推進することにした。
まず、業績低下で過剰となった製造設備や人員を思い切ってリストラし製造部を廃止し、全ての製造業務をアウトソーシングすることで属人的業務の大半を無くすことに成功した。
このようなリストラ断行は多くの経営者にとって比較的容易であり多くの製造業で断行されているが、成果が高くインパクトが高いほど、その副作用も大きくなる傾向がある。
多くの経営者は成果が高いリストラを断行したことによる大幅な業績向上で満足する一方、それによる副作用の弊害に対してはあまりに無頓着である。(特に日産がいい例であり、V字回復後の長期低迷)
そのような副作用は緩慢な組織崩壊をもたらすため、多くの場合、気がついたときは手遅れとなってしまう。
このような副作用を無くすためリストラ断行前に緻密に副作用への対処を施してから、リストラ断行をすることとし、労力としては8割が副作用対策、2割がリストラ断行という具合に副作用対策を徹底的に重視をした。
量産はアウトソーシングしやすいが、数が少ない試作はアウトソーシングできないため、自社内で行う必要があったため、製造部における試作機能を開発部に移管し全ての開発部員が手作業で試作を行えるように徹底をした。
製造部における品管部門を分離させ、その業務を製造部全体の管理から最終的な機能試験に特化させ、エンドユーザーが行う操作による検査とソフトウェア試験に特化させた。
また、以心伝心であった開発部と製造部のインターフェイスを明文化しプロトコルとして確立させるとともに、開発部員全員に対してアウトソーシング作業をさせた。
実は以前より受注数変動が激しく普段は製造能力過剰であるが、予測不可能な特定時期での受注数激増があり、そのときは全社を挙げて全部門の多くを製造部に投入させて製造部に無理をさせて凌いできた経緯があった。
受注数激増時は、製造部のストレスを低減を目的として能力を超えた分を全てアウトソーシングするとともに開発部員全てにアウトソーシングの経験をさせた。
このように事前に製造部なしでも同じ成果を出せるように事前準備を徹底させることにより、製造部廃止後も円滑に業務運営をすることができた。
次に経理課長にデータベース言語SQLの習得させて自社サーバーで自由自在にSQL言語を駆使させるようさせた。
実際にはITに関して反感をもつ経理課長はSQL習得の業務命令に対して辞表で応じそれを受理し、IT化必要性を感じている係長を課長に抜擢させてからすぐにSQLの社内第一人者になったのみならず、内心IT化の必要性を感じていた大多数の課員は、ITに反感をもつトップが去ったことにより、忖度して控えていたIT化が急速に浸透した。
これまで、総務の購買部門と経理部門は別であったが経理で確定申告担当係長を申告作業がない時期に開発部に異動させ製品開発を担当させた。
最初は部外者の加入に抵抗感があった開発課員であるが、開発作業繁忙期に総務から即戦力が得られるメリットを痛感してからは、開発部は部外者を歓迎するように組織風土が変貌した。
もとからSQLやPHP、Pythonに精通した係長が開発作業をマスターさせたあとに購買部門と経理部門を統合させ、かつ、係長とパート係員のみで職務を遂行できることを目標とした。
属人的要素が最も高い確定申告作業であるが、一番属人性を低下できるクラウドシステムを導入し、係長のみで職務遂行できるようにした。
次にクラウドの確定申告機能と連携できる在庫管理クラウドシステムを係長がPHPとSQLで自作し開発部の業務フローに組み込み、購買部門を廃止した。
多くの場合、総務で導入したシステムを開発など現場に組み込むと使い勝手の悪さから現場側が往々にして混乱をもらたし、最悪、組織が緩慢に崩壊する危機がもたらされることがある。
このようなことを防ぐため、事前に係長に開発部の業務フローを叩き込むことにより円滑に導入することが可能となった。
それでも事後に問題点が発生するため、それらをクリアさせて、ある程度システムを枯れさせたうえで、自作したクラウドシステムと同じものを外注化させた。
これはシステム内製化による2次的な属人化を抑制するためであり、係長による情報システムの属人化を無くし、情報システムの非属人化を達成した。
受注数変動が激しく普段は業務が少なく予測不可能な特定時期での受注数激増がある外部環境は変化がないため、検査部門における業務の混乱はそのままであった。
検査部門では、エンドユーザーの要求と非属人化の第一歩としてISO9001品質管理を導入したが、これにより検査業務が増大し、さらに業務の混乱に拍車がかかってしまった。
アウトソーシングでは製造だけでなくプリント基板回路の自動検査やパターン認識による外観検査も依頼したが、それ以降は社内で対応する必要があった。
検査部門では、電源投入による基本機能検査、各機能ICやマイクロコンピュータの個別試験とファームウェア書き込み、通信インターフェイスからの基本ソフトウェアとアプリケーションのインストール、コマンドラインによるアプリケーションの動作試験、ストレージやメモリカード、インターネット接続、USB機器を接続した組み合わせ試験、ISO9001の事務作業など、最短で1台あたり30〜60分かかっていた。
また、1つでも検査エラーがあるとその対策に大きなオーバベッドが生じて、そのたびに作業フローが混乱をきたしてしまい、特に最初の電源投入に反応しない場合は途方にくれた。
このような不具合箇所究明は、豊富な経験と勘がものをいうため、属人的業務の最たるものであった。
製品プリント基板内の各機能ICとマイクロコンピュータの機能試験とファームウェア書き込みは、JTAGの内部操作機能を用いているが、実はJTAGにはEXTESTという外部端子試験機能も存在し、これはJTAGの必須機能であるため、EXTEST機能を駆使すれば回路内の各信号の取得や電圧の上下も外部PC上で可能になる。
JTAGのEXTEST機能を活用することにより、エラー時の不具合箇所究明の作業を外部PC上で自動システム化することにより、非属人化と作業フロー安定化を同時に達成した。
それ以降の作業は、検査員がPC上における手作業のコマンド操作で検査をしていたが、検査部門の長に作業フローの定型化部分の抽出をさせつつ、定型化実施に必要な作業フローの修正をさせたうえで、最終的にRPAの導入で大幅な非属人化と受注数激増時の納期短縮を成功させることができた。
ただし、検査の前半工程である各機能ICとマイクロコンピュータの機能試験とファームウェア書き込みは、PC上での手動のままであり、RPA化はできないでいた。
理由は、各ICや各マイクロコンピュータごとにJTAG通信ケーブルが独自だけでなくJTAG専用ソフトも独自であるため、各ICごとに通信ケーブルの抜き差しと専用ソフト起動を行う必要があり、RPA化は容易でなかった。
各社ともJTAGという上位レイヤーのインターフェイスは共通であるが、内部機能をアクセスする仕様は非公開であるので、せっかくJTAGという世界統一規格があっても十分に活用できないでいた。
そのため、経営者は破格の大金支出を決断し、JTAGと信号解析に精通し、ドキュメントなしで通信スクリプトを組める外部のスペシャリストに依頼することにして、各メーカのJTAG専用ソフトと同等のものを内製化でき、すべての検査作業を一気通貫でRPA化することに成功した。
作業時間自体は10分程度かかったが、作業の前後のみ関与すれば良いので、パイプライン的作業をすることにより、1台あたり10〜20秒程度に大幅に短縮し、かつ、非属人化も達成された。